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​多田知史「感情が織りなす空間」


2024.11.19 Tue - 12.2 Mon


この度SAN BANCHO GALLERYでは、多田知史の展覧会「感情が織りなす空間」を開催いたします。



本展のテーマは、感情の感触を多田のモチーフ(名称:ルルー)を介して感じることです。



多田が描くBornシリーズは、心の感触とは何かを個展毎に表現しています。

第一回目となる昨年は、宿命に違和感を覚えて自らの意思で他の道を選ぶ際に得た、心の始まりを描きました。

第二回目となる今年は、心を得たことで新しい場所へ旅立ち、初めての経験を繰り返すことで感情を認識します。



この経験したことのない数多の感情を描くことが、タイトルの「感情が織りなす空間」へ繋がります。

第二回目のテーマである感情の感触を描くため、感情が織りなす空間の観察を行いました。



多田は感情を、喜怒哀楽や色で表されること以外にも、高さや奥行きといったものがあるのではないかと感じ取っています。

高さとは、舞い上がるような喜び、深い悲しみという様に、上がる下がるという感覚です。奥行きは、好きなモノに対しては隣りにいる様に感じ、嫌いなモノには遥か遠くにある様に、手前や奥という感覚です。



この様に常に一様ではない数多の感情と、心の中にある広大で複雑な形をした感情を、感情が織りなす空間と呼んでいます。



次に、数多の感情が織りなす空間を一つのキャンバスに描くことを目指しました。

空間は感情以外でも、有るモノや起こる時などの要因によって変化が加わります。

加わった要因を踏まえた機微を感じ取り、数多の感情が織りなす空間を一つのキャンバスへ表現するには、具象と抽象の両面から描く必要がありました。



この具象と抽象の狭間を意識して制作したのが、メイン作品の「のびやかに」です。





「のびやかに(2)」 アクリル F10号



メイン作品の「のびやかに」は、温もり、温度、湿度というモノに包まれながらも、伸びやかに遠くまで広がる空間を、どこまでも行こうとする解放感を描いている作品です。

生れた場所が持つ宿命から解放されたルルーが、新しい場所へ旅立つ瞬間を描いていますので、本展の起点となる作品になります。



これは、初めて地方から都会へ行った人、初めて日本から海外へ行った人、初めて地球から宇宙へ行った人など、初めての場所へ向かう際に経験する感情に類似しています。



多田は本作を描き始める前に、空間に関与するモノを理解するため、広い平野と空、様々な天候の空や空気感、湿度や温度のある大きな空間の様子を観察しました。そんな途方もない深さと大きさを持つ自然を参考に、広大で複雑な形をした感情を一つのキャンバスに表現し始めます。



幾つもの作品を描いたのち、今の多田が表現したい解放感を描けたのがメイン作品の「のびやかに」です。

ご覧いただく際は、本作のルルーが発する感情に触れることで、皆様の感情を認識する機会となり、その感触を感じていただければ嬉しいです。



本展は、空間にある数多の感情を表現するために、具象と抽象の狭間を行き来する描き方をしておりますが、これは抽象表現を学んだ経験と本展を表現するための課題から生まれました。

抽象絵画はドイツ表現主義やキュビスムなど様々な抽象表現が生れ、互いに影響を与えながら続いてきた歴史があります。



多田は以前から、ジョルジュ・ルオー(Georges Rouault 1871-1958)、パウル・クレー(Paul Klee 1879-1940)、パブロ・ピカソ(Pablo Ruiz Picasso 1881-1973)、ルーチョ・フォンタナ(Lucio Fontana  1899-1968)、マーク・ロスコ(Mark Rothko 1903- 1970)の抽象作品を参考にしており、好きだからこそ大学時代から学び続けていました。



学び続けながらも、抽象表現を必須とするテーマを持つ機会がなく、Givenシリーズ(2008年-2021年)のろうそくや星空など具象表現を主軸に描いてきた多田ですが、ルルーというモチーフを通して心や感情の感触を描こうとした際に、具象表現のみでは表現しきれないことに憤りを覚えました。



表現できる幅を広げるという課題を解決するため、過去の学びを活かして抽象表現の試行錯誤を行い、本展のテーマを描くために必要な具象と抽象の狭間を描く方法に辿り着きました。



さらに、この抽象表現を描く中で新しい気付きが生まれました。

そのきっかけは、今までの具象作品を好んでいた方から、具象作品の方が好きというご意見を幾度かいただいたことです。描かれているモチーフや描き方が違えば好みが発生しますが、多田は常に心の感触をテーマとして描いていることに変わりはありません。同じことを伝えようとしても人によって受け取り方は変わる、その気付きに出会えたことで日本人がアートへ触れる環境に関心を持ちました。



コロナ禍以降、アートに興味を持つ人が増えましたが、それでもアートを理解する機会が少ない日本人からすると、抽象表現に興味を持てる機会が少ない状況にあります。これは、日本特有のアートを育ててきたことや日本人の気質も要因として挙げられますが、アーティストやギャラリー側からアートや抽象に対して興味を持てる懸け橋を作り出せていないことも要因として考えられます。



その上で、多田が具象を描き続けたGivenシリーズ(2008年-2021年)を経て、新しく始めたBornシリーズ(2020年-2024年)で具象と抽象の狭間を生み出すことにより、抽象表現に興味を持つ小さな懸け橋を作り出せる可能性を見出しております。



多田の作品を好む方しか気付けない小さな懸け橋ではありますが、本展を通して抽象表現へ興味を持つきっかけになることを願っております。



最後に、具象と抽象の狭間を行き来しながら、皆様の深く大きい数多の感情が、どの様な感触をしているか、ルルーと共に感じながら本展をお楽しみくださいませ。





SAN BANCHO GALLERY

三番町ギャラリー








2024年5月に多田の初画集「DeePop」が完成しました。







この画集は、多田が2008年から描いていたGivenシリーズ(2008年-2021年)と、新しく始めたBornシリーズ(2020年-2024年)の作品説明を行っている画集です。


本展のルルーの歩みだけではなく、ルルーに繋がる具象作品への想いなどを含め、約20年の歩みを綴っております。ご興味をお持ちいただいた方は、ご覧いただけますと幸いです。



ページ数:100ページ

限定:2,500部

定価:3,300円(税込)












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